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第925回

2012年2月22日

"ゴム毬”経営者

千田 直哉

 『聖少女』で第58回直木賞を受賞した作家の三好徹さんは読売新聞の記者だった。

 新聞記者をやめた理由は、左遷で飛ばされた水戸支局に長く在籍せざるをえなくなったためだ。「東京本社に戻してほしい」と人事部に何度も異動の要望を出したが叶わず、このままでは、情報量の少ない“田舎”で潰れてしまうと考えたのだという。

 

 同じようなことを私の恩師である楓元夫先生からも聞いたことがある。「新聞記者は一線で取材して書いていてなんぼの世界だ。これをしなくなると、自分でも気付かないうちにまるでゴム毬のように空気が抜けて、弾まなくなってしまうんだよ」。

 

 とくに「ゴム毬のように弾まなくなってしまう」という言葉は、私には強烈な印象として残っており、常にそうならないことを考えながら、仕事に当たってきたような気がする。

 

 もっとも「ゴム毬のように弾まなくなってしまう」のは、記者の世界に限った話ではない。

 実際、“ゴム毬”よろしく自分が置かれた環境に甘んじているうちに、やる気や切れひいては能力自体をなくしてしまうビジネスマンを嫌と言うほど見てきた。

 

 ただ、ビジネスマンの場合は、本人と家族に不安定な生活をさせるところが歩留まりと言っていい。

 ところが、これが経営者となると一変する。自分の生活だけではなく、従業員もろとも路頭に迷わせることになるからだ。

 

 しかしながら、業界を見渡せば、弾まなくなった“ゴム毬”経営者がどれほど多いことか。

 

 諦めがあるのか、向上心を失ったのか、その他の理由によるものか、知る由もないが、“ゴム毬”経営者が運営する企業は、そこに勤める従業員にとっての悲劇だ。
 

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